ぎんゆうしじんになりたい男のブログ

キングコングバンディと猪木のボディスラムマッチみたいになってっけどよぉ by 上田晋也(くりいむしちゅー)

4、百科事典

 ファクト(事実)と百科事典
 たくさんのデータを蓄積していくことを「教養」と思う時代が始まり、主な辞書、百科事典は王立協会以降に出来てくる。
 百科事典は、解剖図や断面図といった図版も多く収められ、何でもかんでも、視覚で捉えてみようという思考があったのだろう。
 『そこまで人間の体の内部に関心がある文化とは何か。端的にいって知識、教養のあり方が変わったといえる。今まで見えないものをあきらめていた教養があったのであり、そこから先は神の領域、人間が手を出してはいけない領域だった。技術論的にいえば、不可視の領域である。見えないものは理解しない。「好奇心」というものと直結した目が現象の表層をやぶって、どんどん世界を可視のものに変えていく。「啓蒙」とは文字通り「蒙」(くら)きを「啓」(ひら)く光学の謂なのだ。』
 一七二八年にある百科事典が出た。エフライム・チェンバーズ(一六六七~一七四〇)の「サイクロぺディア」である。これは世界最初のアルファベット順検索辞典である。だから、一番最初に出てくる挿絵が「A」ではじまる「アナトミー(解剖学)」である。高山宏は、この事典に掲載された人体の解剖図版を例に挙げる。
 『このアナトミーの絵を見ていると、見えるものがわかるものだ、見えないものも開いてしまえばわかるものになるとする、今まで見えなかったものも無理に見るという「啓蒙」の構造がよくわかる。見えないものは見えるようにすることが、知識の根元的なメタファーになりはじめたのだ。
 知識のあり方が一変している背景には、まず内省ということがある。中に入ってまでも構造が知りたい。構造がわかることが「わかる」こと、なのである。』
 『初等教育における絵の意味ないしは、もっと徹底して断面図の意味がわかってくると、子供相手の図鑑のたぐいに、ありとあらゆる表象の方法が使われるようになることの意味がわかるのである。
 今売られている辞書を見ても、文字でわからないことは絵で示す、あるいは文字と絵が矢印で対応されているというコメニウスのやり方がそのまま残っている。また、人体だろうとカメラだろうと、中が見えないとなれば、絵でスパーンと切って見せる。「薔薇十字の覚醒」の遺産なのである。』
 『一七二八年は、世界がどうなっていようが、私たち人間にとって納得がいくシステムであればそっちの方がいいというそうした時代の幕開けを意味した。どちらが世界への対応として正しいのだろうか。アルファベット順の秩序こそ「表象」のあり方そのもの。アルファベット順で構成される世界など実際にはどこにもないが、でもアルファベット順は便利だ。』


【参考図書】
高山宏 奇想天外・英文学講義 講談社選書メチエ