ぎんゆうしじんになりたい男のブログ

キングコングバンディと猪木のボディスラムマッチみたいになってっけどよぉ by 上田晋也(くりいむしちゅー)

ヒロイックファンタジーとは?

sword&sorcery 剣と魔術の世界

ヒロイックファンタジーとは?
 L・スプレイグ・ディ・キャンプによる”ヒロイック・ファンタジー”とは、
 『いま現在の世界でも、過去の世界でも、未来の世界でもなく、よい物語を展開するのにふさわしいそうあるべきだった世界である。この名称の下に集められる物語は冒険ファンタジーであり、想像上の先史時代あるいは中世の世界を舞台としている。
 つまり、(想像するのも楽しいことに)すべての男が強く、すべての女が美しく、すべての問題が単純で、すべての生活が冒険的である時代だ。
 こうした世界では、きらめく都市が星々を背景に輝く尖塔をそびえ立たせ、妖術師が地下の根城から不吉な呪文をかけ、悪意に満ちた精霊が崩れかけた廃墟を徘徊し、原始の怪物がジャングルの藪をのし歩き、超人的な強さと豪勇を誇る英雄のふるう広刃の剣の血塗られた刃の上で、王国の運命が天秤にかけられるのである。』というような物語である。
 『ヒロイックファンタジーに登場する住人は、だれひとり、所得税、学業放棄、社会医療制度について語ることはないことも、重要な要素である。』つまり、宗教や法律によるがんじがらめの規制がなく、道理の通らない出来事に対して、力による解決をその世界の住人たちが容認していることになる。
 だがら、主人公が許すことのできないことに対して、読者が痛快さを覚えるようなアクションが必然的に生まれるのである。これは、敵を殺すことにも成りかねず、近代法制の下で暮らさざるをえない近代以降の人間が主人公の場合には、なかなか難い物語となる。
 ヒロイックファンタジーは近代、現代社会の窮屈な現実が生んだ産物であろう。


ヒロイックファンタジーの原点 『不死鳥の剣』解説より
 ディ・キャンプの説にそって、ヒロイックファンタジーの歴史を考える。
 『ヒロイックファンタジーの源流は、古代の神話や中世の騎士物語にさかのぼれるが、小説の形に定着させたのは、十九世紀末のイギリスの文人ウィリアムモリスである。
 モリスは、産業革命によって国土や人心が荒廃するのを憂い、愛好する北欧の神話や英雄譚にならって、中世風の異世界を舞台とする「遍歴と探索のロマンス」を書き上げた。モリスは牧歌的な中世世界に社会の理想を見たが、それが現実の中世とは似ても似つかないことを熟知していた。したがって異世界を創造しなければならなかったのだ。その最高傑作は、おそらく「世界の果ての泉」だろう。
 モリスに続いたのがロード・ダンセイニである。ヒロイックファンタジーの歴史において重要なのは、長大なモリスのロマンスに対して、ダンセイニの英雄神話風の物語は短編形式で書かれたことは、ヒロイックファンタジーの可能性を広げたと言える。
 E・R・エディスンは、現代生活の味気なさに幻滅しており、北欧の神話やサガに理想の世界を見いだした。
 すなわち、戦いのなかで人間が純粋に生きられる世界である。したがって、エディスンの書くものが戦いの喜びを謳いあげる英雄神話風の物語になるのは当然の成り行きであった。
 この北欧神話風の英雄譚の系譜は、J・R・トルーキンに受け継がれる。トルーキンは<中つ国>というゲルマン神話風の異世界を緻密に作りあげ、その世界で展開される「遍歴と探索の物語」をいくつも構築した。「ホビットの冒険」から大作「指輪物語」へと発展した。
 都市文明に息苦しさをおぼえていたロバート・E・ハワードは野生児が暴れ回る物語を好み、頽廃した文明の産物(魔法)を自然の活力(剣)が打ち破るというパターンを執拗に描きだした。そんな彼にとって、剣と魔法が激突するヒロイックファンタジーは、物語をおさめる格好の器となった。
 ハワードは一九三二年、ついに蛮人コナンの物語を生みだした。ハイポリア時代と呼ばれる超古代を舞台に、北方からやってきた野蛮人が剣の力だけを頼りに邪悪な魔術師や超自然の怪物を倒してゆくという物語は、冒険活劇と怪奇小説の融合であり、文字どおりの<剣と魔法>であった。つまり、ヒロイックファンタジーの完成である。
 従って、それ以降ヒロイックファンタジーは、コナンの模倣をめざす流れとコナンとは異なるものをめざす流れで構成されるようになる。』